4月22日、秋葉原UDX アキバ・スクエアにて開催された「技術書典4」に、サークル「めがねをかけるんだ」として参加してきました。
この記事は「技術書典4」の振り返りの記事になります。
新刊二冊
今回は新刊二冊の構成となりました。
一冊目は、筆者の知る(体験した)商業出版に関わるあれこれを詰め込んだ「本当はおそろしい商業出版!?」、二冊目はTensorFlowを使ったML Ops本「茶色いトイプーは食べ物じゃないっ!」です。
実は、技術書典4に申し込む直前まで「本当はおそろしい商業出版!?」だけでいこうと思っていました。今回、書きたいものがそれだったということが理由です。
商業であれば依頼が来たテーマのもので書くのが要件になりますし、同人であっても順当に行けば「TensorFlowはじめました」の続編を出す方が売れるだろうなあという見込みはありました。
ただ今回は「本当はおそろしい商業出版!?」が書きたかった!!
しかし、技術書の商業出版にフォーカスを当てているとは言え、技術書典は技術書オンリー同人誌即売会です。そのコンセプトに沿うならば、技術書も合わせて出したほうがいいだろうという結論になり、けれどTensorFlowはじめましたとは別の軸でということで、ML Opsを題材にした本を作ることとしました。
ML Opsとは
ML Ops(Machine Learning Operations)は、近年、機械学習の勉強会などで話題に上るようになった新しい言葉で、明確な定義は未だありません。
本書では、モデルの構造やハイパーパラメーターなど、いわば「機械学習の花形」のみならず、データの収集、蓄積、整理、モデルの学習や評価を円滑に行うための様々な施策。
それらの施策を立案、実行する個人やチームまでを含めて「ML Ops」と呼んでいます。
執筆環境
「茶色いトイプーは食べ物じゃないっ!」は、これまでどおりRe:VIEWを使って執筆したのですが、迷ったのが「本当はおそろしい商業出版!?」です。この本は縦書き右綴じで行こうと決めていました。縦書きの本をRe:VIEWで作るのは、TeXを頑張ればできるとは思いますが、それほどまでしてRe:VIEWを使う動機が僕にはありませんでした。
執筆にあたって、次のソフトウェアについて検討しました。
一太郎
最近は同人小説などに手厚い機能が追加されているので支持者もたくさんいる一太郎です。ただ、残念ながら筆者が普段使いしているmacには対応しておらず、候補から外れました。
(技術書典の参加サークル一覧でJUST SYSTEMSさんを見つけるのはもう少し後のことです)。
Scrivener
小説家の藤井大洋さんの影響を受けてScrivenerを使っていて、実際にいくつかの原稿はこれで仕上げています。原稿以外のデータも一元管理できることや、変更履歴の見やすさなどから気に入っています。
超技術書典で頒布した「一度、あきらめてしまった人のためのプログラミング入門」も、これで執筆しました。
ただ、これも英語圏のソフトであることに加えて、ぼく自身の習熟度が低いこともあって、縦書き執筆環境としては採用できませんでした。
egword Universal 2
egword Universal 2は、かなり昔からあるワープロソフトですが、ぼくが知っているのはこの「物書堂」からリリースされたバージョンからです。
縦書きサポートが充実していて、一ページの行数と一行あたりの字数を設定すると綺麗にレイアウトしてくれます。また、見開き印刷をしたときにページの行が前のページの行ときちんと揃うなどの細かい点もきちんと押さえています(このあたり、一太郎もちゃんとしているようです。念のため)
対応OSと縦書き日本語への親和性を考えて、今回はegword Universal 2で執筆しました。
執筆した感想
コンセプトの異なる本を同時期に書くのはスイッチングコストが高く、進捗が滞りがちになりました。
このあたりの切り替えをもっと器用にできるようになるのが、ぼくの今後の課題です。
「本当はおそろしい商業出版!?」
エッセイ形式に挑戦するのは二度目ですが、書いても書いてもページが増えずに辛い思いをしました。
あと、書いてから契約書を見直して守秘義務条項を見つけて、その会社特有の記述を削ったりもしました。
出版社に迷惑をかけてやろうとかそういう動機はないので(それでも怒られるかもという危惧はありましたが)、いかにディスらず、読んだ人が「気をつけよう」と言うポイントを簡潔に伝えられるかという点に重点を置いたつもりです。
「茶色いトイプーは食べ物じゃないっ!」
いつもどおり書きましたが、どこまで書くかは悩みました。
ぼくの手元で動いているシステムを解説するので、放っておくといくらでも分厚くなります。どちらかというと右往左往したところと、現時点の結論にフォーカスを当てて、さほど迷わなかったところについてはばっさりと記述を削除しました。
頒布部数
どちらも100部予定で臨みました。
前回までの「TensorFlowはじめました」は大体200部を刷って、そのうち9割を頒布するという計画で、それなりに上手くいっていました。
印刷所にお願いするときに、印刷部数と価格はリニアな関係ではありません。部数を多くすればするほど一冊あたりの原価は下がります。
そういう意味では、新刊二冊体制というのは部数を伸ばせず原価も下げづらい構成です。仮に前作までと同じだけの数を刷ってしまうと、搬入数が単純に2倍になり、事前に申告してある搬入数を大幅に超過してしまいます。
各100部という構成にすると決めましたが、ここから1割を取っておくのはさすがに乱暴です。印刷は少しだけ多くしたのですが、ぼくがお世話になっている印刷所は100部の次は150部しかメニューしかありませんでした。そこで、やむを得ず150部印刷することにしました。
技術書典4では、一冊あたりの印刷部数としてはこれまでで最小部数。しかし持ち込みとしては過去最大の部数となりました。
「在庫を抱えたらどうしよう」不安が無かったかといえば嘘になりますが、まぁ、そのときはそのときです。眼鏡っ娘が表紙の本をオフィスの床に敷き詰めて寝転がれば、きっと幸せな気分だろうな。とか考えていました。
価格決め
価格はどちらも1,000円としました。理由は、おつりの処理が面倒と思ったからです。
「茶色いトイプーは食べ物じゃないっ!」はB5版52pと、これまでの「TensorFlowはじめました」と同等であるのに対して「本当はおそろしい商業出版!?」はB6版と小さくページ数も44pです。この二冊で同じ価格という事実を参加者がどう見るか、正直予測できませんでした。
ただ、技術書典は同人イベントなので、その価格で買ってくれる人にだけ手にとってもらえれば良いと割り切って、価格の調整はしませんでした。
表紙絵・デザイン
これまでは表紙・裏表紙を根雪れいさんに担当してもらっていました。今回は2冊作ること。根雪さんのスケジュールの都合もあって表紙のみのイラストとなりました。
代わりに、どちらの本にもデザイナーさんにロゴ作成や配置デザインをお願いしました(これまでは僕がやっていました)。
挑戦したのは「茶色いトイプーは食べ物じゃないっ!」の方です。「笑顔でない眼鏡っ娘」と言う、いってみればネガティブな表情の表紙イラストは、これまでお願いしたことがありませんでした。
ただ、ぼく自身、たまには眼鏡っ娘に叱られてみたいという気持ちもあるので、きっとどこかに需要があるだろうと思い、発注内容を維持という決定をしました。
これが今回「技術書典4」で、もっとも勇気を必要とした決断です。
当日
結論から言えば、頒布予定数は完売し「めがねをかけるんだ」では過去最大の売上高となりました。
眼鏡っ娘絵をオフィスの床に敷き詰めて寝転がることは叶いませんでした(持って帰ってきた本はありますが、献本の上を転がってはいけないと思うので我慢します)。
その上で、TensorFlowを題材にした「茶色いトイプーは食べ物じゃないっ!」の方が売れ行きが良く「本当はおそろしい商業出版!?」は常に後を追う形になりました。「技術書典に求められているのは、やはり技術書なんだなぁ」という印象です。
(けどぼくは「本当はおそろしい商業出版!?」が書きたかった!)
また、まったく趣向の異なる本を二冊出すのは二正面作戦になって大変辛いと言うことが分かりました。
まず、二冊の本を同時にプロモーションするのは至難でした。
サークルカットに2つの本のタイトルも入れるとどうしてもごちゃごちゃしてしまいます。けれど、本のタイトルを入れないと、そもそもクリックしてもらえなさそうです。ブログを書くにも、一つの記事で2冊の本を紹介するか、記事を分けるかで悩みました。
被チェック数を見ても、チェックした人がどちらの本に興味があるかの分布が分かりません。
当日も(ある意味予想どおり)客層が分散してしまい、どちらか片方だけを買うという人も当然いて、減りの偏りは精神的にきついものがありました。
持ち込み部数も多くなるので、完売するまで(午後五時ぎりぎりまで)ぶっ続けでサークルスペースにいなければならず、ワンオペではトイレにも行けませんでした。
やっぱり一冊だけ出すのが精神的にも、肉体的にも、お財布的にも楽だなと言う結論になりました。
それでもぼくは「本当はおそろしい商業出版!?」が書きたかった!
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